ご無沙汰してます。てむるです。
速度域について書こうかと思っていたのですが、まとまらないままモダンでアドグレイスを回していたらうっかり先日の晴れる屋休日杯で入賞。
そこからだらだら回していたら勝ったり楽しくなってきたりで、浮かれた勢いそのままに、結局アドグレイスの記事です。
有言を実行しないことに定評のある私。そんな定評捨てちまえ。


アドグレイス(むかつきデッキ)について
アラーラの断片(もう9年前だなんて……)にて登場したカード、《むかつき/Ad Nauseaum》をキーカードとした、モダンのコンボデッキです。

むかつきをキーカードとしたデッキで有名なものではレガシーのANTが挙げられますが、あちらはむかつきをあくまで手札補充の手段として採用したストーム(※)デッキ。
対してこちらはその起源を時のらせん期のエクステンデッドに置く、全く別系統のコンボデッキになっています。
※ストームという何で刷っちゃったんだってキーワード能力を持ったカードをキーパーツにしたコンボデッキ。詳しい説明は割愛。

むかつきのライフルーズを逆手に取り、《天使の嗜み/Angel’s Grace》や《ファイレクシアの非生/Phyrexian Unlife》で「ライフが0を下回っても敗北しない」状況を作りだしてライブラリーを全て手札に加え、《稲妻の嵐/Lightning Storm》などのフィニッシュカードを叩きつけて勝利するという豪快かつ独特な動きが特徴です。

メタゲームに合わせた柔軟な構築も可能で、サイドに《墓所のタイタン/Grave Titan》等を採用し、コンボ以外での勝ち筋を用意した構築もよく見られます。

その他大まかな特徴については以下の記事を参照いただければ。
・むかつき - MTG Wiki
http://mtgwiki.com/wiki/%E3%82%80%E3%81%8B%E3%81%A4%E3%81%8D
・モダンデッキ案内 -アドグレイス- http://www.hareruyamtg.com/article/category/detail/2973


本題に入るその前に
英語読めねぇよ!という方には大変申し訳ないのですが、今回の記事の内容は主に以下のサイトを元にしています。

・[Primer] Ad Nauseam http://www.mtgsalvation.com/forums/the-game/modern/developing-competitive-modern/221735-ad-nauseam

「mtgsalvation」という海外のフォーラムサイトに投稿された、「アドグレイス入門」ともいうべきエントリー。
「どうせフォーラムへのユーザー投稿だろ?」と侮るなかれ。ChannelFireBallの記事において、Bob Huangが“highly recommend checking out(目を通すことを強く勧めるよ)”と発言するほど。(参考:https://www.channelfireball.com/articles/ad-nauseam-deck-guide/
デッキの特性から細かいパーツ選択、マッチアップの相性やサイドボーディング、更にはプレイの際気を付けたほうが良い場面などあらゆることを網羅しており、ひとまず頭に入れておけばとりあえず迷うことはほとんどなくなると思います。
情報は少々古いものですが、アドグレイスというデッキの基礎部分に関わる内容のため、当時から大きく変化したであろう現在のメタゲームにもつながってくる内容です。


私の検索能力がぽんこつなせいだとは思うのですが、海外に比べて日本国内においては、アドグレイスを取り扱った記事が少ないと感じます。

各サイトの記事でたびたび取り上げられるも、基本的なコンボについて触れてだいたい終わり。細やかなサイドプランなどについてはほとんど触れられない印象。理由は後述しますがデッキの特性上Tier1にはなりづらいため、戦略記事がそこまで必要とされていない可能性も否めませんが……
もちろん使用者によるディープな考察記事もあるのですが、どちらかといえばある程度アドグレイスを理解したor使用している人向けのものが多くなる印象。

ですが、アドグレイスは過去にGP優勝(2016年のGPシャーロット)を果たしたことがあるほどの力のあるデッキで、2017年のGP神戸でもTop8入りを果たしています。
様々な経緯からこのデッキにたどり着くも、中々回し方が分からなかったり、良く分からないけど勝てた(負けた)、記事を読んで勉強したいけど中々見当たらない……
そういった方々の力に、また「わからん殺しされたんだけどどうなってんのこのデッキ!?」といった対アドグレイスを考えている方の力になれればと思います。

まだまだ練習中の身ではあるため、自分の考えをまとめる目的が大きいのですが、そういった経緯から今回記事を書きました。
最後までお付き合いいただければ幸いです。


リスト、カード選択について
現在私が使用しているリストは以下になります。色々変えて試したりはしていますが……
https://twitter.com/RUG_mtg/status/942365955023241216


●メインボード
メインに関してはカードの役割配分がほとんど確定しており、以下にその一般的な配分を書いていきます。
 ・土地20枚
 ・マナ加速8枚(《睡蓮の花/Lotus Bloom》、《五元のプリズム/Pentad Prism》)
 ・むかつき4枚
 ・むかつきを探す手段3枚
 ・死なない手段7~8枚(天使の嗜み、ファイレクシアの非生)
 ・フィニッシャー2枚(稲妻の嵐、《研究室の偏執狂/Laboratory Maniac》等)
 ・《猿人の指導霊/Simian Spirit Guide》4枚
 ・妨害手段への対策3枚(《否定の契約/Pact of Negation》、《神聖の力線/Leyline of Sanctity》)
 ・キャントリップ8枚(《血清の幻視/Serum Visions》、《手練/Sleight of Hand》)

どうプレイするかは後述するとして、いくらか補足を。

土地の内訳に関しては、人によって配分が変わってきますので特別断定はできませんが、《宝石鉱山/Gemstone Mine》などの5色土地、テーロスブロックの占術ランドが代表的です。
また、幽霊街や血染めの月などに備えて基本土地を2枚ほど採用するケースが恐らく一般的。私は島と平地を1枚ずつ採用しています。
むかつきをプレイするのに不可欠な(黒)(黒)はマナ加速アーティファクトから一気に出すことが多く、土地からそれ以外のためのマナを出す場合、嗜みや非生のための白マナと、コンボパーツにアクセスしたり相手の妨害手段を除去するための青マナが必要となるためです。

むかつきを探す手段は《大霊堂の戦利品/Spoils of the Vault》、《深遠の覗き見/Peer Through Depth》、《神秘の指導/Mystical Teachings》の3種類が主流です。
これらはどれも一長一短ありますので、プレイヤーや構築によって変化します。
戦利品に関しては、研究室の偏執狂と組み合わせる事で、むかつきを用いることなくセルフLO勝利を狙える点は押さえておきたいところ。

死なない手段の枚数の幅について。2017年現在では、環境の高速化に伴ってかコンボパーツ兼アグロへの回答となるファイレクシアの非生の4枚目が採用されるケースが増加していますが、かつてはこの部分が《殺戮の契約/Slaughter Pact》や追加の否定の契約になっていました。いわゆる自由枠ですね。そのため7~8枚といった書き方になっています。

キャントリップについて。基本的には血清の幻視と手練4枚ずつの8枚体制ですが、コンボ自体には必ずしも必要ではないため、手練を3枚に落とし自由枠を1枚作ったりするケースがあります。そのため上記と併せて2枚ほど自由枠があり、メインボードから何かしらの除去を搭載して相手への干渉手段をとったり、《発熱の儀式/Pyretic Ritual》等を搭載してコンボ完成や速度を補強した構築も。追加の土地というケースもありますね。


●サイドボード
アドグレイスの柔軟さのキモとなるのがこの部分。環境に応じて色々突っ込んでいきます。人によって方針も異なるため、アドグレイスごとにサイドから飛んでくるカードが大きく変わるケースもしばしば。
以下、私が構築する際の方向性を記します。

①苦手なカード、デッキへの対策
このデッキは「ハンデス」、「打ち消し」、「ヘイトカード」といった妨害手段、そして「自身よりキルターンの速いデッキ(主にコンボ)」が苦手です。
これらへの回答について検討・採用していきます。

・《神聖の力線/Leyline of Sanctity》、追加の否定の契約など
主に「ハンデス」や「打ち消し」に対する回答。特に力線は対ハンデス以外にも役立つ場面が多く、ほとんどのリストにおいて採用されています。
「打ち消し」に対する回答としては、他にも《すべてを護るもの、母聖樹/Boseiju, Who Shelters All》《トレイリア西部/Tolaria West》などがあげられます。

またこれらはメインボードにおける「妨害手段への対策」として機能するため、メタゲームによっては否定の契約の代わりに神聖の力線などがメインボードから搭載されるケースも。

ちなみに「ハンデス」に対するその他の回答として個人的にお気に入りなのは《ネファリアのアカデミー/Nepharia Academy》。《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》からもハンドを守れ、アンタップインなのが地味ながら優秀。色マナが出ないのは難点ですが、《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》を用いることで若干のケアも可能。

・除去、ハンデス
こちらは主に「ヘイトカード」、「自分より速いコンボ」への回答。
具体的には《残響する真実/Echoing Truth》や《摩耗+損耗/Wear // Tear》、《致命的な一押し/Fatal Push》や《思考囲い/Thoughtseize》、殺戮の契約など。書きだしたらキリが無さそうではあるので割愛しますが……異界月で登場した《集団的蛮行/Collective Brutality》なんかは除去やハンデスを兼ねられたりして中々優秀。

除去は主に《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》のようないわゆるヘイトベアー、《石のような静寂/Stony Silence》、虚空の杯といった置物への対抗策。
また、ストームやカウンターカンパニーなどこちらよりキルターンの速いコンボは何らかのシステムクリーチャーに依存する場合も多いため、これらに対する妨害策となり得ます。

ハンデスは上記ヘイトカードやコンボデッキ相手にパーツを抜くのはもちろん、打ち消しを抜いたり中々に多芸。キルターンがこちらと同等かそれ以下の土地コンボ(トロンやヴァラクートなど)相手にも、相手の速度を落とす形で役立ちます。


②追加の勝ち手段
青系や黒系のフェアデッキを始め、ヘイトカードによる妨害が想定される白系の相手に、サイド後も愚直にコンボを通しに行くのは一苦労。
そうでなくとも相手はコンボを意識してサイドボーディングをしてくることが考えられるため、勝ち筋を増やす&変えることで逆にその隙をつこうというプラン。

・大型クリーチャーなど
墓所のタイタン、《太陽の勇者、エルズペス/Elspeth, Sun’s Champion》、《龍王ドロモカ/Dragonlord Dromoka》、《畏敬の神格/Godhead of Awe》etc……

簡単に言うと「1枚で勝てるスペックのあるカードをぶつければ大体勝てるだろ」という思想。サイドの打ち消しに引っかかったり、この戦法が割と有名になってしまったのでそう易々と勝てるケースは中々ありませんが……

刺さるデッキもそれぞれ少し異なります。以下にざっくりと。
タイタン:BG系やコントロール(とりあえず雑に強い)
エルズペス:エルドラトロンやコントロール
ドロモカ:青系コントロール(巻き添えでアグロ全般も)
畏敬の神格:死の影、エルドラトロン(細かい所だとタルモをルールの都合で1/1に出来たり)

他には《僧院の導師/Monastery Mentor》や《未練ある魂/Lingering Souls》なんかも。
デメリットもそれぞれ異なってくるため、恐らくここが最も人によって差が大きく出る部分です。

・追加の稲妻の嵐など
近年では少なくなりましたが、あくまでコンボを通すんだ!という人向け。
追加の稲妻の嵐の他には、《突撃の地鳴り/Seismic Assault》など。古のむかつきデッキが搭載していた《燃焼/Conflagrate》も良さげ?

《真髄の針/Pithing Needle》などフィニッシャーそのものを意識したサイドボードをされるため、この枠はカードそのものを散らすのが多い印象です。
この手の火力呪文を追加する最大のメリットは、ヘイトベアー系のクリーチャーに対する除去を勝ち手段の枠に組み込める点。2枚あれば1枚切っても問題ないですからね。


③その他
明確なヘイトカードなどで余った枠を埋めていきます。

例えば墓地利用デッキや《集合した中隊/Collected Company》デッキに対する《墓堀りの檻/Grafdigger’s Cage》、虚空の杯や親和への回答になる《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》、感染に対するほぼ専用カードの《魂の裏切りの夜/Night of Souls’ Betrayal》や《厳粛/Solemnity》。

サイド後アグロやミッドレンジに対する勝ちを盤石にするための《至高の評決/Supreme Verdict》、《バントゥ最後の算段/Bontu’s Last Reckoning》などの全体除去や、《天空のもや/Ethereal Haze》や《暗黒/Darkness》といったいわゆるフォグ系の呪文などなど……

こうした専用対策のヘイトカードが最優先される場合もあれば、お試し枠やオシャレ枠なんかで普段見かけないカードが突っ込まれることも。


相性差
ざっくりとした相性差は以下の通り。
 ・有利
 大体のアグロ、土地コンボ
 ・五分
 青(打ち消し)込みデッキ、UBxカラーのデッキ
 ・不利
 BG系のデッキ、デスタク系統、こちらよりキルターンの速いデッキ全般
 ・無理
 感染

勿論お互いの採用カードによってこれらは変わってきますが、概ねこの傾向にあるといってよいと思います。


有利な条件は大まかに
①相手を押しとどめることが可能
②キルターンがこちらより遅いデッキ
③打ち消しやハンデスなどの妨害手段が入っていない
といった点です。

バーンや親和、マーフォークなどのアグロデッキは天使の嗜みやファイレクシアの非生を用いることでコンボ完成まで耐えることが出来ます。
土地コンボ(主にトロンやヴァラクートなど)のようにほぼ完全にスピード勝負になるコンボ対決の場合も、こちらのほうがキルターンが早いため有利です。


反対にこのデッキが苦手な要素には
①ハンデス
②打ち消し
③ロックカードやヘイトカード
④自身よりキルターンの速いデッキ
が挙げられます。

①は主にジャンドやアブザンなどのBG系、③は主にデスタクなどのヘイトベアー系デッキになります。
②に関しては、否定の契約等の存在から対処できる場合も多いため、そこまで不利になる要因にはなりません。

①~③の要素を複数持つデッキも多いのが悩みのタネ(白黒エルドラージなど)ですが、青黒系のデッキは例外的におよそ五分相性。メインはともかく、相手側は抜くものが少なく入れるものが多くなるため、適切なサイドボーディングをしづらいケースが多々。相手の75枚のうち、妨害手段がどのような分布になっているか次第なところも。
ところがグリクシスシャドウに関しては、元々死の影デッキがハンデス中心のデッキであることから厳しい相手。うーんややこしい。

近年流行りのエルドラージトロンはちょっと評価が難しい印象。《虚空の杯/Chalice of the Void》をうっかりX=3でプレイされるとメインはまず勝てませんし、雑にX=0やX=1で置かれても中々キツいのですが、逆に言うとそれさえ何とかなれば向こうの《歪める嘆き/Warping Wail》にも引っかかることなくコンボで勝てるし、畏敬の神格なんかも刺さるし……求む有識者。

④については主にけちストームやカウンターカンパニ―といったデッキがそれにあたり、スピード勝負では先手後手関係なくこちらが遅いため不利となります。1ターン分確実に稼ぐ天使の嗜みがあったりで、全く勝てないというわけではないのですが。向こうが事故ることを祈りましょう。嗚呼不毛な争い。

感染に関しては、そもそも当たらないことを全力で祈るしかありません。
キルターンがこちらより圧倒的に早く(というか下手するとモダン最速レベル)、天使の嗜みやファイレクシアの非生がほぼ無意味、打ち消し&呪文滑りを搭載している……とアドグレイスの苦手要素のオンパレード。祈りましょう。それか夕飯に何を食べようか考えましょう。

また、冒頭で述べたTier1になりづらいというのは、以上のことが理由だったり。
アンフェアデッキが強いとされるモダンでスピード負けしがちで、それらコンボデッキを対策したデッキも巻き添えを食うような形でつらく、確実にメタゲームに存在するBG系や死の影デッキはそもそも苦手……要するに「Tier1やそれらを対策する有名どころにはいまいち勝ちきれない感」が否めず、Tierランクをのぼりづらいデッキではあります。
逆説的に知られていないが故の「わからん殺し」が可能で、バーンや親和を含めたアグロや土地コンボといった、これまたメタゲーム内に一定数存在する様々なデッキに有利~五分が付くといった強みもあるのですが。


実戦編
●キープ基準
メインに関しては「マナ加速」「死なない手段」「むかつきor実質むかつき」の3種類のうち2種類が初手にあれば、大体キープしてしまってよいと思います。
ここでいう「実質むかつき」とは、大霊堂の戦利品や神秘の指導など、確実にむかつきにアクセスできるものを言います。深遠の覗き見は5枚の中から選ぶので少しランクダウン。

上記に加えて土地が2枚程あるのがベスト。キープ基準を上げる場合はこれも含めるのが良いでしょう。
とはいえ極端な例ですが、睡蓮の花が2枚あれば土地0でも勝てる可能性があるのがこのデッキです。土地も20枚程度しか入っていないため、あまり基準を上げすぎてマリガン→手札が足りなくなる……といった負け方をしない方が個人的には良いかなぁと。

サイド後に関しては後述します。

●回し方
メインでは、睡蓮の花の待機が開けるタイミングやファイレクシアの非生を絡める際のマナの都合などから、基本的には4T目のコンボ完成を目指してプレイします。

完成形の盤面はいくつかあるのですが、「①死なない状況を作った上で②むかつきを撃てるマナと③フィニッシュ手段を使えるマナが用意できる」のがそれにあたります。
例を以下に記します。

①睡蓮の花使用
1T目:睡蓮の花を待機&占術ランドorドロースペルでパーツや土地を探す
2、3T目:土地を伸ばしたり、ドロースペルで引き続きパーツを探したりする
4T目:睡蓮の花キャスト。むかつきと天使の嗜みでライブラリを引ききり、猿人の指導霊3枚追放からの稲妻の嵐で勝利。

②五元のプリズム使用
1T目:占術ランドやドロースペルを使用
2T目:五元のプリズムを烈日2で設置
3T目:ファイレクシアの非生を設置
4T目:むかつきを以下略して稲妻の嵐

これらはあくまで例です。実際にはこれ以上のマナが用意できるケースも、逆にパーツの到着が遅れるケースもあります。実戦では相手の妨害などによってさらに大きく変化してきます。土地6枚並べてむりやりむかつきと天使の嗜みを撃ったりとかですネ……

「あれ、稲妻の嵐はともかく偏執狂は?」という点。彼は中々難しいカードで、メインでは相手の除去で処理されやすいため出しづらいことが多く、また大抵はフィニッシュに必要なドロースペル含めて青ダブルを用意する必要があるため、マナが揃う速度的にも勝ち手段にしづらいことが多いです。
一方で呪文滑りや神聖の力線など「それってサイドカードじゃないのか!?」といったカードがメイン戦から飛び出してきた際には、セルフLOで勝利という自己完結性の高さが役立ちます。これはサイド後も然り。

稲妻の嵐ルートは(猿人の指導霊を3枚使用する形であれば)全てインスタントで動き続けて勝つことが可能なルートということも重要。ファイレクシアの非生を除去する呪文や能力、その他面倒なものにスタックしてコンボで勝ったりと、豪快さの割にかなり器用な動きも可能です。

また、このデッキには3Tキルルートがあるため、それらに必要なものを記します。狙ってみる際の判断材料にどうぞ。
①稲妻の嵐フィニッシュ
必須:むかつき、天使の嗜み、五元のプリズム、猿人の指導霊、土地各1枚
完成形:追加の五元のプリズム、土地、猿人の指導霊などで、3T目に(黒)(黒)(白)含む6マナを捻出できる盤面。
補足:マナ関係で代用が効きやすいため案外揃うこともあるルート。対戦している際いきなり2T目に猿人の指導霊を使いつつプリズムを置いてきた場合、ほぼ確実にこれ。

②偏執狂フィニッシュ
必須:研究室の偏執狂、天使の嗜み、大霊堂の戦利品、猿人の指導霊各1枚、土地2枚(うちアンタップイン1枚、(黒)(白)が出せて青1マナが出る組み合わせ)
完成形:2ターン目に偏執狂を設置。
補足:除去で即死しかねない&代替パーツもないためシビアなルートですが、アップキープに天使の嗜み&大霊堂の戦利品でセルフLO→通常ドローで勝利が可能。

●サイドボード
モダンのサイドボードは個別に考えだしたらキリがないのと、個別例は最初に述べたフォーラムの記事などにも詳しいので、ざっくりとした方針を。
というより、恐らくアドグレイスの構築自体が人によって異なるのもあって明確にどうこう書きづらいというか、あんまり言語化&共有されてない感じも……

・抜くもの
抜けるものは決まっており、睡蓮の花4枚、五元のプリズム4枚、手練3枚、否定の契約3枚、自由枠2枚(大抵は手練とファイレクシアの非生の4枚目)の計16枚から選んで抜いていきます。
お気づきでしょうか。抜くことが可能なものが多く、15枚サイドチェンジも可能です!
……まぁ当然というか流石に冗談ですが、アドグレイスの柔軟さの背景はここかもしれませんね。

閑話休題。抜ける理由について。
マナファクトについて。サイド後相手がこちらのスピードを落とそうとする際、真っ先に狙いをつけてくるのはここです。なので大抵の場合抜けますが、土地を切り詰めた構築である以上、ある程度マナファクトのサポートが必要なのも確かなので、全抜きはしません。サイド後シンボルのきつい全除去や追加フィニッシャーを投入する場合は尚更。
抜く枚数や配分は、先手後手やマッチアップによってこれまた様々。虚空の杯が警戒される場合は睡蓮の花を優先して減らす、BG系のようにパーマネント除去が豊富なデッキならば場に残しがちな五元のプリズムを優先して減らす、といった具合に……

手練ですが、最速のコンボ完成にはそもそもキャントリップ自体が必要でない&偏執狂フィニッシュに使えない&ライブラリを掘れる枚数が少ないことから、血清の幻視よりも優先して抜けます。枚数はコンボ速度がどこまで求められるかに応じて変え、ほとんど抜かないケースもあります。

否定の契約やファイレクシアの非生について。否定の契約はカウンターを搭載した青系デッキ以外には腐りがちなので抜けます。またそういったデッキには神聖の力線が刺さることが多いので大抵は入れ替える形に。ファイレクシアの非生はメインに3枚程度残す形で抜きます。神聖の力線やマナファクト向けの除去が当たってしまうためです。

その他適宜抜けそうなものは抜いていきましょう。そこは構築次第。黒系のハンデスを使ってくる相手にはむかつきを1枚減らして手札に入るタイミングを遅らせ、代わりに追加のフィニッシャーを入れるプランも。

・入れるもの
相性差の項にて述べた、苦手な要素のうち①~③のどれが入ってくるかを考えていくのがまずは1つ。
①のハンデスであれば神聖の力線。②の打消しであれば否定の契約は残し、③のロックカードやヘイトカードであればそれらを対処できるカードを入れます。

そして、相手に応じて追加の勝ち手段やヘイトカードを入れていきます。
クリーチャー主体のデッキであれば全体除去、ミッドレンジやコントロール相手には多角的に攻めていける墓所のタイタンなどの追加の勝ち手段。アグロやコンボ相手にはハンデスで妨害などですね。

・サイド後のキープ
サイドボード以上に難しいのでまだはっきりとは言語化できず。
ただ「減らしたものは引きにくくなる」、当たり前ですがこれをしっかり意識して回すことが大事かなぁとは。

抜けるパーツの中にマナファクトがあることから、キープ基準にマナファクトはあまり換算しないケースが多いです。
マナファクトや力線は重要なカードですが、それらを躍起になって探すマリガンをすると、安定性があるとはいえそもそも倒れやすいコンボデッキであることから事故死しがち。ゆるくキープして枚数を持っておくのも大事。

上記の理由から、マナフラ気味の手札の方が逆にしっかりマナが出て戦いやすいケースも。
また追加の勝ち手段を入れている場合、初手にあれば&問題なくキャストが出来そうならば、私の場合キープしてしまったりしています。
着地してそのまま勝てればいいですし、そうでなくてもコンボが控えていますからね。

終わりに ~アドグレイス気になってるけど……という人向け
私は冗談めかして、アドグレイスを「チャネルボール(※)」と呼ぶことがあります。
※マジック黎明期のコンボデッキ。参考:http://mtgwiki.com/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB

睡蓮の花(=《Black Lotus》)などのサポートを元に、むかつきと天使の嗜みで大量の土地(=マナ)をライフと引き換えに手に入れ(=《チャネル/Channel》)、それらを稲妻の嵐につぎ込んで一撃で相手を倒す(=《火の玉/Fireball》X=20)様子が「さながらチャネルボールのようではないか?」と思い至ったのがきっかけです。

否定の契約も、天使の嗜みで踏み倒した場合の手札の消費や、実際支払うマナの量は《意志の力/Force of Will》のようですし、大霊堂の戦利品は悪名高い《Demonic Consultation》の調整版。
そういった古のカードやコンボのパワーの一片を、調整版ではありますがモダンでまとめて味わうことができるのは、アドグレイスというデッキの魅力の一つだと考えています。

変幻自在のサイドボードプランや、ルール書き換えカードの数々から、相手の虚をついて勝ちを拾うのも、毎度毎度回し方が変わる楽しさがあり、MTGWikiにて称された「ローグデッキ」を体現するようなデッキだと考えています。
もしもこの記事を読んでなにか感じるところがあれば、ぜひ手に取ってみてください。他のデッキとは違ったマジックの風景が見えるのではないかと思います。

長々とお付き合いいただきありがとうございました。アドグレイスの魅力を少しでも伝えられたならば幸いです。

次の記事は未定。速度域は抽象的過ぎ&そんなに偉くないので9割断念中。
有言を実行しないことに定評のある私。そんな定評捨てちまえ。

それではまた次の記事か、あるいはどこかの大会で。


●参考サイト、オススメサイト等
・各デッキリスト検索サイト
各地の職人たちのリストから知識をもらうの大事。
オススメは太陽のお店。理由は検索かけるとなんとなくお分かりいただけるかも。

・Magic Math - How Consistent Are Spoils of the Vault, Collected Company, and Griselbrand in Modern? https://www.channelfireball.com/articles/magic-math-how-consistent-are-spoils-of-the-vault-collected-company-and-griselbrand-in-modern/
戦利品で自滅する確率(いわゆるデモコン死)などを計算した、カーステン博士の確率記事。状況に応じて細かい部分は変わってきますが、ざっくりとした把握に。

・Winning Ad Nauseam http://www.starcitygames.com/article/33676_Winning-Ad-Nauseam.html
近年のアドグレイスがサイドボードプランとして採用する、墓所のタイタンを始めとしたクリーチャー戦術について解説されたStar City Gamesの記事です。
またMtG英公式サイトには、執筆者のAndrew Brownが実際にGPでアドグレイスを使用した際のインタビューも掲載されています。(参考:https://magic.wizards.com/en/events/coverage/gpind16/ad-nauseam-with-andrew-brown-a-control-player-goes-combo-2016-08-27

【MTG】ゆかりのアンフェア・アンライフ その1「アドグレイス」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm32142431
これ書いてたらもっと分かりやすい動画が出てきたのでご紹介。この記事の存在意義ェ……
投稿者の方はアドグレイスを用いてPPTQにも参加されているらしく、確かな経験と知識に基づいた作品です。動画中のクイズ&解説も必見。

コメント

nophoto
アドグレイス初心者
2018年1月25日0:54

初めまして。
最近アドグレイスを練習し始め、プレイングに関する記事を探していたところ、こちらの記事に辿り着きました。
記事の内容、貼っていただいているリンク先の内容も含めて大変参考になりました。
もしよろしければ、グリクシスシャドウや五色死の影相手のサイドボーディングについて教えください。入れたいカードに対し抜きたいカードが少なく、頭を悩ませています。
どうぞ、よろしくお願いします。

てむる
2018年1月30日0:34

>アドグレイス初心者さん
コメントありがとうございます!お力になれたならば幸いです。
標記の件ですが、実は私自身対戦経験がないため、伝聞や事前に考えている内容になることだけまずはご容赦いただければと思います……()

抜きたいカードが少ないとのこと。わかります。結構悩ましいですよね……

まずサイド後の基本方針として、死の影やBGミッドレンジ、コントロール相手には積極的に速度勝負を挑みません。サイド後は①耐久しつつ隙をついてコンボを狙う、②サイドの追加の勝ち手段を用いる、ほとんどの場合この2つの勝ち筋からじわじわと攻めていきます。
これはこちらのマナ加速がサイド後の置物除去で狙われること、あるいはハンデスや打消しの増加といった理由からどうしてもコンボの始動が遅れがちになるためです。

そのため、抜けるものとしてはまずマナ加速が上がります。サイド後の置物除去(古えの遺恨や突然の衰微など)やハンデス(集団的蛮行など)、グリクシスシャドウでは儀礼的拒否を用いての妨害も予想され、仕事をさせづらくカード自体のバリューが下がるためです。ここを神聖の力線、全除去などの防衛手段に置き換えていきます。

死の影デッキ相手の場合、優先して抜けるのは睡蓮の花。設置タイミングを選びづらく、相手は除去や打消しでの対処も可能&容易で、コンボを急ぐわけではないので初手で待機させてもうまみが少ないですしね。全抜きするケースもあり。
一方で五元のプリズムは、マナフィルターとしての役割を果たし設置タイミングも選びやすいため、数を減らすことはありますが全抜きはしません。除去を当てられると苦しいですが、土地20枚程度のこのデッキがサイド後マナシンボルの多い勝ち手段や全体除去をプレイする支えとして、必要悪気味に数枚残します。

「それでも枠が足りない!」という場合、①手練を減らす、②むかつきを1枚減らすといったことを試してみてください。恐らくこれで追加の勝ち手段の枠も作れると思います。
手練について。長期戦となりがちなため通常ドローの回数も多く、そもそもコンボに絡まない(血清の幻視は偏執狂ルートに必要な場合がありますが)ため、案外必要性が薄く減らしてしまってよいカードの1つです。土地やコンボパーツを探す手段として数枚残すのもアリですが。

また、グリクシスシャドウを始めとする青黒系のデッキはハンデス→外科的摘出というコンボを持っているケースが多く、下手すると即死してしまう可能性も存在するため、参考URLの動画でも触れられていますが②のようにむかつきを減らしてドローを送らせつつ、追加の勝ち手段に置き換えるのが良い場合も多いです。

上記から恐らく7~9枚ほど抜けるものが作れると思います。例としては睡蓮の花4、五元のプリズム1~2、手練1~2、むかつき1、など。
入れるものに関しては、グリクシスも5Cもハンデスと打ち消しの両方が存在すると考えられることから、神聖の力線と否定の契約の両方を投入。
そして除去や、必要に応じてサブの勝ち手段(畏敬の神格、あるいは6マナエルズペスなど)を入れていきます。神聖の力線4、全除去2、勝ち手段2といった形で入れるとおよそ8枚。上記と照らし合わせると恐らくきれいにインアウトが出来るかな?と。

死の影デッキを始めフェアデッキは人によって構成が大きく異なる場合も多く、適切なサイドボーディングを事前に決めづらい相手なので、私自身適切にアドバイスが出来ているか不安ですが、お力になれば幸いです……!良きアドグレイスライフを!

nophoto
アドグレイス初心者
2018年1月30日14:25

サイドボーディングの基本方針から丁寧にご教示くださり、ありがとうございました。特にマナアーティファクトの役割の差など、その他のデッキ相手のサイドボーディング案にも役立てられそうです。
大変参考になりました。教えていただいた内容を元に、練習を重ねてみたいと思います。